【case2】墓じまいを告げると次々と金銭の要求が

94歳で没した父親は、「家の墓には入らない。海に散骨してくれ」と言い遺していた。長女であるマリさん(66歳・自営業)は言う。「詳しい事情はわかりませんでしたが、何か確執があったらしく、祖父母の眠るM家代々の墓には入りたくないと言っていました。母も私も弟も父の遺志を大事にしたいという思いでした」

そこで遺言通り葬儀は寺に告げずに執り行い、父の遺骨は海へ散骨したという。「困ったのは、父が継承していた代々の墓と菩提寺との関係をどうするかです。継承者がいなくなり、誰も後を継がないとなると、墓じまいをしなくてはいけなくなります」

マリさんは祖父母の三十三回忌を済ませたのを機に墓じまいを決意し、寺に挨拶に行った。父が亡くなったことを報告し、今ある墓を撤去したいと住職に伝えると、住職は理由を聞こうともせず激怒。父の遺志とはいえ寺を介さず送ったことに負い目を感じていたマリさんだったが、申し訳なさを口にする暇もなく、住職の口から次々と金銭の要求が出てきたという。

「合祀で永代供養するなら一体50万円。墓の魂を抜くお経に30万円、撤去費用として石材店に50万円……。お支払いになれない方からは、月々にいただいております」

墓には祖父母を含めて6体の遺骨が納められている。祖父母以外はマリさんの知らない人たちだ。三十三回忌を過ぎた遺骨の永代供養だけで合計300万円。住職の口からすらすら出てきた「月賦でもいい」という言葉でマリさんの迷いは消えた。

「お寺さんを呼ばずに直葬したり、お墓に入れずに散骨したりすることに後ろめたい思いがあったのですが、僧侶の口から金銭の話ばかりが出てきたとき、これでよかったのだと心底思えました。恐る恐るでしたが、『散骨しますので永代供養はけっこうです』と言うと、僧侶の声が1オクターブ高くなったようでした」

結局、墓の撤去は50万円を支払って寺が指定した石材店が行い、遺骨は28万円を払って業者に散骨してもらい、お経料として寺に30万円を納めた。マリさんの墓じまいにはざっと110万円の費用がかかったが、これが高いのか安いのか、マリさんには判断がつかないという。

「近隣のお寺さんでは別途、離檀料として300万円かかると聞いたので、まだ良心的なのかもしれません。ただ、お骨になってもお金でかたをつけるようで釈然としなかったですね」

父親同様、祖父母や一緒に埋葬されていた人たちの遺骨は散骨業者に粉骨してもらい、海に撒いた。波間に消えていく先祖の遺骨を目で追いながら思わず涙したというマリさんだったが、同時に、すがすがしい解放感も湧いてきたという。

「もうわが家にはお墓というものがなくなりました。母も散骨にしてほしいと言っていますし、私ももちろん散骨派。ただ、2人の息子たちが果たしてきっぱりと散骨してくれるだろうか、と少々心もとないのですが……」

家族や親戚が一人でも反対すれば、墓じまいはうまくいかない。家族の意思統一と寺との交渉、お骨の行き先の手配など、実務をこなすにもそれなりの手腕と覚悟がいるようだ。