【case1】亡き夫の実家の墓守を押しつけられて

カズエさん(60歳・会社役員)は2年前、結婚5年目で夫を失った。葬儀を終え、夫の両親が眠る墓に納骨した日、夫の姉から「これからはあなたがお墓を守っていってくださいね。寺との付き合いも長男の嫁の務めよ」と言われた。

籍は入れたが夫の家に嫁いだつもりはなかったカズエさんは驚いた。義姉は離婚後、実家に戻って娘と息子と一緒に暮らしている。夫の実家を継いでいるのはその姉にほかならないのだから、カズエさんが驚くのも無理はない。

「夫のお骨をどうするか私なりの考えもありました。婚家の墓とは縁を切りたかったけれど、とても言える雰囲気ではなく……。仕方なく夫は両親の眠る墓に納骨しましたが、せめて少しだけでも分骨して、夫が大好きだった海に散骨してやりたかった。義姉にそれを切り出すと、ものすごい剣幕で『分骨なんてとんでもない!』と怒り狂って……。諦めるしかありませんでした」

遅い結婚で子どももいないカズエさんは、夫の家の墓を継承するなど考えてもいなかった。長い間事実婚を続けていたが結婚したのも、彼が病に倒れ、入院や介護にまつわる手続きのためには結婚という形をとったほうが便利だったからだ。

義姉には、「夫のために墓参りは続けたいが、墓守りをする気はない」と告げた。「納骨後には、霊園の管理人から継承者の登録を促す連絡が入るわ、管理費の納入を迫られるわで困ってしまいました。管理費は年間8000円ですから七回忌まではと思い、まとめて7年分支払ったのですが、継承者としてサインすることはどうしてもできませんでした」

困ったカズエさんは霊園を管理する寺の住職に相談を持ちかけた。子どもがいないため継承しても一代限りになること。自分の実家の墓も、跡継ぎがいないため継承しなければいけないこと。長女である義姉が実家を相続しているし、子どももいるのだから、義父母の眠る墓の継承は義姉に頼みたい、と――。

住職は「気に入らないお嫁さんに『うちの墓には入れない』と言う人はいますが、珍しいですねえ。わかりました。お義姉さんが継承なさったほうがいい。私からお話ししましょう」と言ってくれた。

四十九日の法要の日、約束通り住職が義姉に話しかけた。「あなたもいずれこちらのお墓に入られるのでしょうから、お墓の継承をよろしくお願いしますよ」。すると義姉は「嫌です」と答えたきり口を開かなくなった。集まった親戚はあ然とし、住職は呆れて席を立ち、法要の席はお開きとなった。以来、義姉とは音信不通。カズエさんからの電話はもちろん、霊園からの電話にも一切出ようとしないのだという。

「一周忌の案内もしたのですが、姿を見せません。管理費は私が払ってもいいから、自分の家の墓の始末くらいちゃんとやってほしい。いっそ私が継承して墓じまいをしたいくらいですが、そんなことをしたら逆恨みで何をされるか……」

今は夫の墓参りを続けたい一心で我慢しているが、自分の心のなかで折り合いがつけば、「姻族関係終了届」(いわゆる「死後離婚」をするための手続き)を出して、夫の親族とは一切の関係を断とうと決めているカズエさんだ。