理事長も認知症に

ようやく理事長にも穏やかな生活が訪れたと思ったが、彼女自身も高齢のためか言動が心もとない。病院の診断の結果、認知症をわずらっていることが判明。跡を継ぐこととなった甥夫婦に半ばその座を奪われ、彼女は自宅へと引っ込むことになってしまった。秘書として仕えていた私は、甥の依頼で理事長の生活の面倒を見ることとなる。

冒頭の事件では玄関先まで入った私だが、理事長は公私をきっちり分け、警戒心も強い性格。家にちゃんと入るのは初めてだ。案内された室内を見て、私は唖然としてしまった。とにかく部屋が散らかっている。廊下はあの時と同様に新聞紙が散らかり、台所もぐちゃぐちゃ。

何よりひどかったのが、トイレだ。壁から床、便器まで、長年の汚物がへばりついているのである。きっと、夫が汚してしまったのだろう。さらには彼女自身も認知症となり、掃除する気力も湧かなかったのだ。ちょっとやそっとでは解消できない汚れだったが、何とか人が入れるくらいに磨き上げた。

きれいになったトイレを理事長に見せると、「ありがとう。本当に嬉しい」と、泣いて喜んでくれた。気位の高い彼女は、清掃業者を呼ぶこともできず、ずっと気に病んでいたのだろう。しかし、理事長宅を清める闘いはこれからだった。