「モノに囲まれるのが安心で幸せ」
そのほか、イミテーションのイヤリングに、ノーブランドのバッグたち。経年の疲れが滲んで、思わず「お疲れ様」と言ってあげたくなるほどの代物である。その日は、どうにか寝るスペースだけは確保して終わった。
「モノに囲まれているのが安心で幸せ」だと、高度成長期を生き抜いてきた両親は言い切る。しかし、家の中がモノで溢れたら住みにくいし危ない。そう説き伏せ、不用品は捨てて、売れそうな品だけを質屋に持っていくことにした。「それなりの金額になるに違いないよ」という両親の言葉を背に向かう。
まずは掛け軸。獰猛な虎がこちらを睨む風情からして期待の星だ。
「手描きじゃなくて印刷ですね」
それでおしまい。値をつけるなら1円だというから恥ずかしい。でも「失礼な!」とも思う。
続く、色とりどりの切手は、「初版じゃない」「売れば原価割れだから使うのが一番」と言われてしまった。母のダイヤモンドのブレスレットも思いのほか安値で、がっかりの連続。LPレコードも保存状態が悪く値がつかない。
そしてついに、あのバインダーの番だ。中身は、「東海道五十三次」の絵柄がすべて揃ったテレホンカードセット。保存状態の良さからも、父がその価値を信じて疑わなかったとわかる。しかし、「テレカは最近ダメなのよ」で一蹴。
結局、「宝」のほとんどは、値がつかなかった。