『新記号論』講義の模様。2017年2月17日の第1回。右は石田英敬氏(写真提供:ゲンロン)

一般的な塾やダブルスクールだと、大事なのはあくまでも授業、つまり「知識や技術の伝達」であり、それ以外はサポート対象にしていません。最近ではコロナのせいで、大学教員も授業だけが大事だと言うようになりました。けれども、ゲンロンではそう考えません。授業から離れた講師や生徒たちの関係があって、はじめて授業は力を発揮すると考えています。

 

分厚いコミュニティがあることが強み

その最たるものが飲み会です。飲み会は最近では評判が悪い。だからゲンロンの方向はまたもや時代と逆行しているのですが、ゲンロンスクールは、新芸術校に限らず飲み会が充実しているので有名です。いまはコロナ禍のせいで無理ですが、授業後にみなやたらと飲みに行くんですね。講師が交ざることも多く、議論はときに徹夜で続きます。SF創作講座やマンガ教室だと、そこにさらに先輩がやってきて、後輩の作品を読んで講評するなんてことも起こる。そういう分厚いコミュニティがあることがゲンロンスクールの強みです。

ぼくもときおり顔を出すのですが、そこでのコミュニケーションを見ると、やはり人々が物理的な空間を共有することは大事だと痛感します。オンラインのやりとりでは炎上しかねないようなことも、物理的に近い場所にいればさらりと言えてしまうし、また言ってもそれほど相手が傷つかないということがありうる。

だからハラスメントが許されるという意味ではありません。けれども、そこに違いがあることは端的に事実であって、会わなくても本質的なコミュニケーションができるというほうが現実を見ない幻想だとぼくは思います。そして、そういう「ほどほどに傷つけあうことができる」コミュニケーションの環境が、作品の指導や受講生同士の切磋琢磨には絶対に必要なんです。それは教室だけでは提供できません。