「実は私ね、最近『ライバルはバンクシー』ってあちこちで言ってたんです(笑)。二度見してもらいたい、みたいないたずら心が一緒なのかな、と思って。」(はいりさん)

お金のにおいがするものに抵抗がある

清水 もぎりをただでやってるのは「ボランティア」だよねって言ってるだけで、別に「やめろ」って言ってるわけじゃないの(笑)。ただ、私たちと認識にズレがあることは伝えておきたいかな。

はいり 最初は、よく行く映画館っていうだけだったんですけど、本のイベントを機に親しくなって。

 なるほど。

はいり 「もぎりの経験があるなら、はいりさんのもぎり付きというイベントをしましょう」と。

 それもわかります。

はいり 終わったあと「楽しかったから、たまにきてやっていいですか」「いいですよ」って。

 ああ、はいりさんから、やらせてくださいってお願いしたのね。

はいり だからお客さんとしてお金を払って映画を観に行ったとき「いらっしゃいませ」って……、

清水 そこだ(笑)! 途中までは普通。お客さんとして映画館に行ったのに、なぜ働く。

 そういえば、若い男の子と掃除してたって言ってましたね。

はいり コロナの前までは掃除もしてたんです。

清水 働くなあ。気に入ったお店には、普通は何回も通うだけで、「いらっしゃいませ」の側にまわる勇気がないの。キネカ大森の人たちはみんないい人なんだろうね。友達みたいな、家族みたいな。

はいり ただ、もぎるようになって10年近くになるので、けっこう人は入れ替わってます。

 あははは。新しい従業員のなかには、「なんでこの人、もぎってんだろ?」と思ってる人がいるかもしれないですよ。

はいり 確かにこの間、「荷物運びたいんでカート貸してください」って言われたときは、それはちょっと違うかな、と思いましたね。

 お、清水さん、いい傾向ですよ。親しき仲にも礼儀ありだ、とおっしゃってます。

清水 じゃあ、「鍵渡しておくんで、戸締まりお願いします」は?

はいり イヤかもしれないですね。

 「今日、売店でポップコーンとコーラ、やってもらっていいですか」は?

はいり 口調によるなあ。「興味あるなら売ってみます?」と言われたらやっちゃうかも。ああ、わかった。私、お金のにおいがするものに抵抗があるんだ。美術展もお金のにおいを感じた途端、どうやって楽しめばいいかわからなくなっちゃうし。

 美術なんて、むしろ金と歴史の長さ以外、感じにくいでしょう。

清水 お、さすがアーティスト!