かの有名な「ファーブル昆虫記」を30年かけて翻訳した仏文学者の奥本大三郎さん(右)と、昆虫は「おいしそうかどうか」で見るというタレントの井上咲楽さん(中)。司会は作家の重松清さん(左)

アフリカ大陸で大量発生したバッタの大群が中東やインドにも飛来、農作物が壊滅的被害を受けています。一方で、将来の食料危機を救うと期待される「昆虫食」。今、何かと注目の昆虫ですが、私たち人間と虫たちとのかかわりは……? 仏文学者で《虫の極め人》である日本アンリ・ファーブル会理事長の奥本大三郎さんと、昆虫食を熱愛するタレントの井上咲楽さんをゲストに迎えた今回は、《コオロギせんべい》をつまみながらの鼎談となりました。後編はさらにディープな昆虫食の世界へと話が進み……(構成=福永妙子 撮影=木村直軌)

<前編よりつづく

都会暮らしに慣れて虫に触れない

重松 虫にとって、日本は居心地のいい国だったんですね。

奥本 ただ、先にもお話ししましたが、虫は減っている。きれいな川の水でないと生息できないホタルもそう。水が汚れてダメになった虫はものすごく多いです。それと、日本の山にはどんな木が多く植わっているかご存じでしょう。

井上 スギ……ですか。

奥本 そう。スギ、ヒノキなど針葉樹の人工林です。スギの葉は虫にとっておいしくない。だから、広葉樹の木々が豊かに繁る森には多様な昆虫がいても、スギの森には虫や鳥がいません。サイレント・フォレストなんです。

重松 虫を取り巻く環境の変化とともに、人と虫とのかかわりも変わってきました。奥本先生は「ファーブル昆虫館・虫の詩人の館」の館長さんでもあり、昆虫塾も主宰されていますが、今の子供たちは虫に対してどうですか?

奥本 朝から晩まで図鑑を見ていて、虫の名前を学名でも言える子が、虫を触れないんですよ。

重松 《情報》は豊富なんですね。

奥本 耳年増で、実物に慣れてないんです。でも、昆虫館に来てしばらくすると触れるようになるし、夏のイベントとしてセミの唐揚げなんか出すと、「メスのほうがおいしい」なんて言い出します。大人でも、子供の頃は虫と遊んでいたのに、たまに釣りに行って餌のミミズを針につけようとしたら、「気持ち悪い」と思ってしまう。清潔な都会暮らしに慣れるうちに、グニャグニャした動くものに触れなくなっている。

重松 咲楽さんは、グニャグニャ、ベタベタも大丈夫でしょう?

井上 私は「おいしそうかどうか」で見るので。幼虫は、「どんなクリーミーな味がするんだろうな」とワクワクします。