さっそく私も基本の姿勢を学びます。カエルのように膝を曲げ脚を左右に開いて立ち、重心を下へ──本物のカエルならこのままジャンプしますが──上体を下に落とし、体の真ん中に重心をおいて、右足左足とステップを踏むのです。普段使わない筋肉の動き、やったことのない足の運びによって、新鮮な驚きが一気に押し寄せてきます。

優雅な踊りのつもりでいたのが大間違いで、体験レッスンを終えるとどっと疲れました。こんなに汗をかくことが最近あっただろうか、と思うほど。しかしまた何ともいえない楽しい時間でもあったのです。

 

あと10年早かったらよかったのに

正式に入会した私は、まずサリーを買い求めました。サリーは、幅が80センチ、長さは5メートル近くもある1枚の布。ブラウスとペチコートの上に着ます。不思議なことにたった1本の紐で着ることができるのです。

まず紐を腰に巻いて結び、サリーを紐に絡ませながら腰に巻きつけプリーツを作っていきます。余った布を後方に回し、またぐるりと腰に。すると足の動きと連動してきれいにプリーツが開きます。

たった1枚の布で、身体の動きすら美しく見せるとは、なんてよく考えられた衣装なのだろう、と驚きを感じました。もうひとつ欠かせないのは装飾品です。ブレスレット、イヤリング、そして足首につける鈴。さらに、インドの女性が額の真ん中につけているビンディーという印のシールも買いました。

インド舞踊は、もともと神に捧げる踊りで、寺院専属の踊り子によって伝えられてきました。演劇と結びつくことで発展を遂げてきたため、神話に基づいた舞踊も多く、先生の教えてくださる物語はどれも興味深いものでした。それをステップだけではなく、手や首の動きで細やかに表現します。

ステップをトンと踏むのと同時に、足につけた鈴がシャンと鳴って……。踊るたびに、何ともいえない心地よさを感じ、毎レッスン、1時間ほどその空間に身をおけることが幸せでした。

認知症予防に体を動かしましょう、指先を使いましょう、脳トレをしましょう……と言われる昨今ですが、インド舞踊は、その予防のためのトレーニングにぴったり当てはまっているように思います。毎回びっしょりと汗をかき、指先まで神経を行き届かせ、そして必死でステップを覚えるからです。けれども私は認知症予防のためではなく、ただ楽しいから踊っていました。