自分の決まりを変えられない
岩波 小島さんの子どもの頃はいかがでしたか?
小島 私はとにかく落ち着きがなく、通信簿にも常にそう書かれていました。そして興味がないことはやらない。算数のドリルは「表紙が地味」という理由で開く気にもなれず、宿題を一切やりませんでした。
岩波 逆に当時、何かに熱中されたことはありますか?
小島 本を読んだり、文章を書いたりするのは好きでした。あと、探検です。シンガポールと香港に住んでいた時も、近所の家を覗いたりして。多民族・多文化の国だったので、自分の家と違う匂いや色、音に興味津々でした。
岩波 ADHDの患者さんに幼い頃のことを伺うと、気になるものがあるとそっちに行ってしまい、迷子になったという経験を語る人は多い。好きなことに熱中して寝食を忘れてしまう「過剰集中」も特性のひとつです。沖田さんは、特定の事柄へのこだわりが強かったようですね。
沖田 小学生の頃、通学の途中にやることが決まっていて、どうしてもそれを変えられませんでした。しかも、晴れの日と雨の日でもやることが違うんです(笑)。空き缶を見つけたら必ず3回蹴るとか、くだらないことなんですけど、その自分なりの決まりから外れると、戻ってやり直す。
岩波 もし、それができないと、どういう感じになるのですか?
沖田 たとえて言うと、おしっこをしたい! トイレに戻らなきゃ、みたいな。とにかく耐え難く、私の一日が始まらない、という気持ちになるんです。
岩波 僕の患者さんのなかに、小学校2年生の頃から画数の多い漢字にときめきを感じ、何時間でも漢和辞典を見ているという方がいました。このようなこだわりの症状(常同性)のひとつとして、「感覚過敏」が含まれていますが、沖田さんは聴覚過敏もあったとか。
沖田 小学校は本当にうるさくて、苦痛でした。同級生の声も隣のクラスの授業の声もうるさくて。今も喫茶店に行くと、ほかの人の話し声が耳に入ってきて、目の前の相手と話ができない。いつも脳がぐちゃぐちゃしている感じです。
小島 私もそれ、あります!
沖田 寝ていても脳が動いていて、毎日、音つき色つき匂いつきの夢を見ます。ところが2018年、ストラテラという薬を処方されて。飲んで1ヵ月くらいたったある日、目が覚めたら頭が空っぽだったんです。39歳にして初めての経験で、みんなはこんなふうに頭の中が散らかっていない状態なんだとわかり、衝撃でした。