知識はあってもコミュニケーションがとれない

沖田 実は私、中学生の時にアスペルガー症候群の疑いがあると言われたものの、障害のことは大人になるまであまり理解できていなかったんです。小島さんも言っていたように、私も性格の問題だと思っていて。でも、漫画家になる前に看護師として働いていた時、周りとコミュニケーションがまったくとれなくて、これはおかしいなと思い始めたんです。

小島 看護師同士のですか?

沖田 はい。国家試験も受かったし、仕事はできると思っていたんですよ。でもそれは大きな間違いで、看護師というのは、ひとつの団体なんですよね。そのコミュニティの中に入っていかないと仕事ができないということに気がつかなかったんです。

小島 なるほど。知識があってもね。

沖田 看護師のコミュニティからは弾かれるし、医師からは無能扱いされる。ASD特有の、抽象的な指示が理解できないというのは、医療従事者としては致命的でした。

岩波 ケアレスミスも多かったのですか?

沖田 一度覚えたことは、どんなに都合が悪くても、そのやり方でないとだめ。それで、わざとやっていると誤解される。小学校の時に二次障害で特定の場面で話せなくなる場面緘黙症が出たのですが、病院でもそれが出てしまい、師長さんに呼ばれると石みたいに固まって声が出ない。頭の中には言葉もあるし、謝らなきゃいけないとわかっていても、一切喋れなくなるんです。

岩波 重い自閉症の人だと、すべての動作が止まる「カタトニア」という症状が出ることもあります。

沖田 それもありました。でも周りからは、無視している、開き直っていると思われる。この仕事を辞めたら生きていけないと思い込んでいたので、自殺を試みたのですが死にきれず……。でもそこから憑き物が落ちたようになって、自分にとってラクな生き方をしたいと思い、次に選んだ仕事が風俗でした。

小島 風俗もコミュニケーション能力が必要なのでは?

沖田 マニュアル通りにやれば大丈夫です(笑)。お客様をとにかく褒める。そして「いらっしゃいませ。ご指名ありがとうございます~」と言えばいい。仕事さえすれば感謝されますし、働いている人たちはみんな源氏名なので、本当のことは言わなくてもいいし、なんてラクなんだろうと思いました。