「うるさいなら、山に引っ越せや」
そこで松本家は決意した。道路での騒音問題について共有しようと、「家の前の騒音がひどくて困っている。道路の使い方のルールについて話し合いませんか」という趣旨の提案を手紙に書いて、11軒に投函したのだ。
だが、その手紙が波紋を巻き起こす。松本家からは夫が出席して11世帯(1世帯は参加せず)で話し合いが持たれたが、「町内会を辞めたのだから言う資格はない」「お宅の息子に『静かにして』と注意され、うちの小さな子どもが萎縮しています。ひどくないですか、謝るべきでしょう」と、逆に謝罪を求められた。
話し合いは10対1の構図になり、多勢に無勢で、ルールも作れぬまま。精神的に追い詰められた夫は、心療内科に通院するようになった。謝れと言われた息子も傷つき、松本さんは耳栓をして布団にもぐった。
「《静かにしてほしい。話し合いを持ちましょう》と言ったことが、こんな事態になるなんて。本当に騒音で困っているのだから、多少は対応してくれると期待したのですが、かないませんでした」
にらみつけ、バイクのエンジンをふかして大きな音を立てるなどの嫌がらせが始まったのは、それからだ。宅配便が到着すると「何買ったの? 夫が汗水たらして稼いだお金で。しょうもないもの買ったの?」と大声が響く。
あるとき、「ここは独裁者の家だ、怖い怖い」と叫ばれ、怒って飛び出した夫が「ちょっと待て、こら」と住民男性にすごまれた。
「さすがに怖くなって110番しました。以前、警察にトラブルを相談した際に、証拠をとっておくように言われたので、防犯カメラを設置。それで撮影した動画を見てもらったのです。警官が帰ると7、8世帯の人々に取り囲まれて《うるさいなら、山に引っ越せや》とまで言われました」
「この日のことはトラウマ」と松本さん。以来、嫌がらせの罵声も騒音もさらにエスカレート。インターホン越しに威嚇されたり、脅迫文が届いたり。松本さんは初めて現在の担当弁護士のもとを訪れた。この家に移り4年が経っていた。