雨宮 知り合いに、ネットで中古品売買を始めて月30万円くらい稼げるようになった人もいます。いわばネット上での起業です。あるいは地方に移住して服を作りネット販売し、最低限の暮らしができるくらい稼ぐ人も。この10年、そういう人がちらほら出てきました。
工藤 5年くらいひきこもっていた若者がいて、親御さんは一日中パソコンでゲームをしていると心配していました。本人が会いに来てくれたので話を聞いたら、プログラミングでコードを書いていた、と。そこで就労体験をしてもらおうとIT企業を紹介したら、スキルがすごいということで即採用されました。いきなり、僕より給料が高かったんですよ。
雨宮 すばらしい!
工藤 就労支援では、コミュニケーションスキルの一環として挨拶などの指導もしますよね。ところが彼が入った会社は、「挨拶なんてなんの意味があるの?」みたいな雰囲気(笑)。そこは服装が自由な職場なので、いわゆるで出勤スタイルに見えないかもしれません。親御さん世代からは理解が得にくいかもしれませんが、労働市場における評価軸は時代とともに変化しているのです。
旧世代のハラスメントで、潰されるケースも
斎藤 働くことの概念が変わり始めているのに、親世代の意識が変わらない。そもそも就労動機が、世代によってまったく違います。今の60代以上の人にとって、働くのは食べるため。でも今、就活をしている大学生に聞いてみると、働く理由は「承認欲求を満たすため」なんですね。仲間から脱落したくないという承認欲求、恋人を作り結婚するという承認欲求、これらはすべて就職しないと叶わないと思い込んでいる。その結果、就活自殺が増えていきました。
雨宮 就活に失敗したら、すべてをなくすと思い込むんですね。
斎藤 そうです。就活中の学生の実に21%が、「死を考えたことがある」という調査結果があります。
雨宮 なんとか就職できても、3年以内に3割の人がやめてしまう。
斎藤 精神科では「現代型うつ」という呼び方をしているのですが、ちょっとした挫折や責でくじけやすい。上司からもっとも言われたくない言葉が、「君、この仕事向いていないんじゃない?」。これを言われると、自分を全否定されたと感じ立ち直れない。言っている側はパワハラに耐えてきた世代なので、なんでそんなことくらいで会社を辞めるんだと言いたいでしょうけれど、旧世代のハラスメントのせいで若者が潰されるケースが頻繁に起きています。