雇われてほしいのか、幸せに生き続けてほしいのか
工藤 うちのNPOで行う就労支援は、直接スキルが身につくわけではないものが多いので、「それをやったら就職につながるんですか?」と質問されることが多いですね。でも皆さん、だいたい1年くらいで就労し、85%の人が3年以上働いています。
雨宮 それはすごい。
工藤 残り15%は、うつなどの再発によって続けられなかった人です。
斎藤 働かないというのは、さまざまな要因によって起きる、一つの「現象」でしかありません。ところがまわりの人はそれを、意図的に働かない、つまり「行為」だと見てしまう。これは大きな誤解です。
雨宮 働かないことを自分で選択していると思われてしまうのですね。決して、そうではないのに。
工藤 親御さんに考えてもらいたいのは、雇われてほしいのか、それとも幸せに生き続けてほしいのか。問題なのは、親御さんのなかで右肩上がりの期待インフレが止まらないこと。「バイトに行ってくれたらそれでいい」と言っていた親が、いざバイトに行き始めたら、次は契約社員で、その先は正社員、しかもできれば名のある会社で……とか言い始める。右肩上がりのプレッシャーを家でもずっと受け続けるのかと思うと、いたたまれなくなります。
雨宮 そういう親に苦しめられている人は多いですね。いろいろな挫折を経てやっと働けるようになったら、次は「結婚して、孫の顔を見せてくれ」「マンション買え」とか。それをクリアできないと、だらだらして怠けている、と見るような価値観がある。
工藤 親たちは、「明日は今日よりよくなる」という右肩上がりの時代を経験していますからね。
雨宮 高度成長期とは違い、今はどんなにがんばっても報われない人がいる。そこは言葉でいくら言っても、通じない感じがあります。ただ、正社員になるのが一番いいという価値観が根強い理由の一つは、正社員でなければ不利なことが多すぎるからでしょう。私もフリーランスなので、マンションの入居審査に落ちたことがあります。独身なので今までは父に保証人になってもらっていたのですが、父が65歳を過ぎたら、一部の不動産会社では保証人としての資格がないと言われました。クレジットカードは作れないし、ローンも組めない。雇用形態によって、あらゆることから弾かれる。これだけ多様な働き方があるのだから、社会の仕組みも変わっていかないと現状にそぐわないですよね。
〈後編につづく〉
※『婦人公論』4月23日号 特集「わが子が『働けない』、親にできることは?」より