撮影:本社写真部
親として、「働けない」子どもをどのように見守ったらよいか。「ひきこもり」を社会に広く認知させた精神科医の斎藤環さん、若者の貧困について長年フィールドワークを続けるエッセイストの雨宮処凛さん、NPOで就労支援に携る工藤啓さん。後編は「新しい価値観」について語り合います

この先、何が起こるかわからない世界を子どもたちは生きていく。だから自分たちの生き方や価値観を下の世代に押しつけないことが大事かな、と思います(工藤さん)

〈前編はこちら

「毎日が日曜日でいいわね」

工藤 高学歴の人がひきこもる場合、親も、小学校受験から始まり、子どものためにすごくエネルギーを注いできたケースが多い。親は子を、自分が創った作品みたいに思っているので、それが毀損されることが耐えられないのでしょう。ご家族で相談に来ると、その場で夫婦のけんかが始まることもよくあります。

雨宮 どういうけんかが多いのですか?

工藤 典型的なのが、夫が「俺は外で働いていた。おまえが子どもを見ていたんだから、こうなったのはおまえのせいだ」と妻を責め、妻は「あなたは子どもとまったく向き合ってこなかった」と夫を責める。

斎藤 若い世代の父親は意識が変わってきていますが、60代以上だと、子育ては母親の責任だという考えをまだ持っている。問題は、定年退職して暇になった父親が突然介入してくるケースです。

雨宮 その介入、迷惑そう。精神論とか持ちだして、逆効果になるケースも多そうですね。

斎藤 実際、深刻です。父親が定年を迎えて一日中家にいるようになると、働けない子どもはものすごくストレスを感じると、当事者からよく聞きます。

工藤 その世代の父親の多くは、子どもにも、社会性を盾にした言葉を投げつけます。「世の中はそんなに甘くないぞ」とか。

雨宮 上司みたいなことを言うんですよね。

工藤 母親も、子どもに皮肉的な言葉をかけることもありますよ。「毎日が日曜日でいいわね」とか。

雨宮 ホラーですね。きっとニコニコしながら言うんだ。

斎藤 母親はそういう婉曲話法で、父親は剛速球で子を叩きのめす。子は長年それに苦しめられて、親が70代になったところで復讐に走る。これから一番心配なのは介護虐待です。

工藤 親に傷つけられた記憶は、一生消えませんからね。親たち本人は覚えていないのが、また子どもを苛立たせる。

斎藤 その通りです。