スマホは、人とつながるための必需品

雨宮 私のまわりでは、最近、稼ぎに合わせて低所得でも生きられるライフスタイルを見つける人が増えてきました。たとえばある50代の人は、週2日働き、収入は月6万円です。友人と家賃5万円のアパートをシェアしているから、6万円でもやりくりできる。働かない日は、ボランティア活動などをしてイキイキしています。東京・高円寺にあるリサイクルショップ「素人の乱」のまわりには、そういう人たちが集まって、いろいろな活動が生まれています。今や台湾や韓国、香港、インドネシア、シンガポールからも、高円寺を目指してやってくる人がいて、みんなが集まる飲み屋やゲストハウスも生まれました。

斎藤 その方たちは、スマホは持っていますか?

雨宮 もちろんです。お金は持っていなくても、スマホは持っている。今はLINEの翻訳機能がありますから、海外在住者とのやりとりも容易です。

斎藤 スマホは、人とつながるための必需品ですよね。なかには、働かないのなら、子どものスマホ代金は払わないという親がいるけれど、それは絶対にやめてもらいたい。

雨宮 スマホはライフラインですからね。

斎藤 この先、新しい世代の人たちはもう少し多様な価値観で生きていくようになるだろうと、半ば期待を込めて考えています。勤勉は美しいという価値観も、古くなっていくでしょう。

工藤 今の20代、30代の人は、この先60年とか70年生きるわけです。少なくとも、昭和、平成と続いた日本型正社員モデルがこのまま続くとは思えないし、この先、何が起こるかわからない世界を子どもたちは生きていく。だから自分たちの生き方や価値観を下の世代に押しつけないことが大事かな、と思います。それは今の若い人たちにとって、少しも説得力がありません。

雨宮 みんな、この先どうなるのか不安だと思います。そういう時、週2日働くような生き方のモデルが身近にあると、生きやすくなる。正社員でボロボロになって会社を辞めた人をそういうコミュニティに連れていくと、すごく元気になります。私自身もひしひしと感じますが、就職しなくても、貧乏でも、人が集まれば助け合って生きられるんだと知ることで、安心できるんです。

工藤 親のほうでもそういうコミュニティを覗いてみると、考え方が柔軟になるかもしれません。子どもの収入が少なくても、あるいは働いていなくても、幸せそうであればそのままでいい。つらそうにしているなら、本人のために親御さんも動いてみる。それも、本人にベクトルを向けるより、親の会に行くとか、自分たちの目を外に向けるほうがいいと思います。