ゆるく生きる大人のモデル

斎藤 親が生きている間は親の世話になり、「月3万円くらい稼げばオッケー」くらいの割り切りも大事です。また精神科では、うつ病や発達障害などで社会生活に困難がある人には、障害者手帳を作ります。手帳があれば就労移行支援が受けられるし、就労継続支援のA型では最低賃金も保証されます。私のところに50代で初診を受け、就労移行支援を経て就労した人もいますよ。

雨宮 それはすごいですね。

斎藤 それまで就労したことがなかったのに、親が亡くなったことをきっかけに受診した。今は公務員の採用でも、障害者枠をいかに埋めるか苦慮しているので、ヘンな言い方ですが、売り手市場なのです。なかには障害者手帳を取得することに抵抗があるという人もいますが、あえてそれを利用するたくましさも大事です。

工藤 本人もご家族も、NPOでもボランティアでもいいので、何らかのコミュニティに関与してもらいたい。今は働き手が不足しているので、コミュニティとつながれば、なにかしら新しい働き方と出会えるチャンスが増えています。

斎藤 親がそういう情報を子どもに知らせる場合、一番よくないのは、黙ってダイニングテーブルとかに置いておくこと。たとえば、この『婦人公論』を黙って置いておくとか(笑)。無言の圧力になりますから。「お母さん、これ読んで参考になったから、よかったら読んでみて」と普通に言ってほしいですね。いずれにせよ、ひきこもりや働けない人を批判するのではなく、「好きに生きればいいじゃない」くらいのゆるい社会になれば、みんなもっと生きやすくなるのではないでしょうか。

雨宮 ゆるく生きる大人のモデルを、まずは家庭で見せていく、ということで(笑)。親が人生を楽しむことから始められたら、状況が変化するかもしれませんね。


※『婦人公論』4月23日号 特集「わが子が『働けない』、親にできることは?」より