雨宮 勤め続けることで命の危険があるなら、親は子どもに会社を辞めさせたほうがいい。実は私の弟も、ブラック企業に勤めていた時期があります。契約社員から正社員になる際、ボーナスはなし、給料は残業代込み、労働組合には入らないという誓約書にサインさせられたんです。
斎藤 それはひどいですね。
雨宮 親の世代なら、それが違法だとわかるけれど、弟にはわからなかった。いまどき正社員にしてもらえるなら、ありがたいと思ったんでしょう。ところが働き始めたら、1日17時間労働で、休みは昼に30分だけ。どんどん痩せていきました。その様子に親が気づき、辞めたほうがいいと背中を押してくれた。親はそういう防波堤の役目も果たせます。
斎藤 多くの場合、子どもが会社を辞めたいと言うまで、親がきちんと対話できていないことが問題です。説得とか議論ではなく、まずは言い分をしっかり聞く。そのうえで、親の懸念を表明する。気をつけたいのは、親自身不安に駆られているので、「せっかく入れたのに辞めちゃダメ」と、つい命令調になりがちなこと。でも働けと言われたら働きたくなくなるし、辞めるなと言われたらかえって辞めたくなるものです。だからもし不安を口にする場合、親は「自分は親だけど未熟だから不安に思ってしまうんだ」と付け加えて言うようにしてほしい。
欲を取り戻すと稼ぎたくなる
雨宮 働かずに自宅にいると、学生時代の友人とも疎遠になるし、人づきあいがほぼなくなってしまう。すると、社会的に孤立してしまいます。それはすごく危険なので、他者との関係性を作ることは大事ですね。
斎藤 長くひきこもっていると、自分の欲望が低下してしまうことが多いので、まずはそれを回復させるような支援が必要です。
工藤 支援の現場で若者たちを見ていると、仲間ができることで、一緒にコンサートに行きたくなるなど、欲が生まれる。そのうち、遊園地に行ってきたとか、仲間たちと1泊旅行に出かけるとか……。
斎藤 集団の力ですね。
工藤 はい。欲を取り戻すと、お金を稼ぐ理由も生まれるので、働く意味が生まれます。そして仲間の誰かが働き始めると、自分もできるかな、みたいな感情も芽生えます。
斎藤 就労支援とは、追い詰めて働かそう、ということではありません。でもいまだに、「そんな甘いことを言っているからいつまでも働けないんだ」と言われがちです。施設での拉致監禁型の就労支援がなくならないのは、厳しくして根性を叩き直さなければダメだという認識がまだあるからでしょう。