蔵之介さんのおかげで謎めいた男でいられた
「本日未明、国籍不明の漁船20隻が我が国領海内に侵入」の一報から始まる24時間を描く、映画『空母いぶき』。西島さんが演じるのは、航空自衛隊のエースパイロットから海上自衛隊に配置転換し、「いぶき」の初代艦長に抜擢された秋津竜太。一方、佐々木さん演じる新波歳也は、海上自衛隊の生え抜きでありながら、副長としてその下に就く。二人は防衛大学校同期でトップを争った仲という設定だ。
西島 クランクインの前に、監督から「この映画は、戦争を描いていますが『戦争映画』ではありません。平和のための映画なんです」という熱のこもった説明を受けましたよね。本当にその通りだった。自衛隊のみなさんにお話を伺い、現場で撮影が進んでいくなかで、「いかに戦争を避けるか」という作品なんだということが実感できました。
佐々木 平和とは何かということを演じる側も問われましたよね。シナリオの冒頭から「戦闘態勢につけ!」ですもん。現実にそんなことはそうそうない。僕らの想像をはるかに超えた状況を描く作品だな、と撮影しながら感じましたね。
西島 僕の演じた秋津艦長と蔵之介さんが演じた新波副長は、まったく違う感覚の持ち主。秋津は、「闘わなければ守れないものがある」と明確に思っていて、力を持つということはひるむことなくそれを使うことだと考えています。
佐々木 僕が演じた新波は、「我々は戦争する力を持っている、しかし絶対やらない」と考え、それをはっきり口にする。でも、秋津艦長は語らないんだよね。口にするのは「結論」だけ。
西島 ええ、秋津という男は、自分にだけ見通すことのできる未来を一人見つめていたんだと思います。
佐々木 それは、現場に穏やかに入ってきて、緊迫するシーンでも動じることなく終始穏やかな西島くんの姿を見て、僕自身が感じた。僕らにはまだ見えないものをこの男は見据えているんだな、と。
西島 秋津は何を考えているのか、他人にまったく見せないタイプ。でも、新波副長だけは、この謎めいた男を信じていた。
佐々木 うん、新波は防衛大学のときから一緒で、秋津がどんな考え方をする人間なのかもわかっていた。だから、「平和を守る」という目的は自分と同じで、今の戦局を一緒に乗り越えよう、とそんな理解だったんじゃないかと思う。取る手法が自分とは異なるから、時に対立してしまうけれど、それは単純な対立じゃないんですよね。
西島 とても複雑な人間ドラマになっていると思います。これは蔵之介さんのおかげです。最初にキャストが集まった台本の読み合わせのとき、蔵之介さんの新波に初めて触れたわけですが、「見ている人は新波に感情移入できるだろうな」と感じました。新波は人間味にあふれていて、心から「戦争反対」。蔵之介さん自身の考えと新波の考えが一致しているからこその説得力があった。そうやって確固たる軸を、蔵之介さんがつくってくれたから、僕は逆に自由にさせてもらえました。
佐々木 いや、新波については、台本にセリフとして書いてありますから。でも秋津の感情は、セリフや表情には出てこない。大変な役だよね。
西島 蔵之介さんの新波がいたから、秋津は、「何を考えているかさっぱりわからない人間」として、形づくることができたんです。