イラスト:大高郁子
還暦を過ぎて新しい仕事を始めたら心身に張りのある日々が得られる? 特に身体を動かす仕事で得られるものは、お金だけでなく、人それぞれに《いいこと》があるようです。60歳を超えてそんな職を得た女性たちに話を聞きました。たとえば大手住宅設備会社を定年退職したのち、66歳で「お母さん代行」という仕事に携わる瑞穂さんの場合は――。(取材・文=野原広子 イラスト=大高郁子)

普通の主婦業が仕事になるなんて

瑞恵さん(66歳)が、家事や育児の助っ人を仲介する「東京かあさん」を知ったのは、去年の9月。夕方のニュースだった。

「ごく普通の主婦がする掃除、洗濯、お料理が仕事になるということに、まず驚きました。そのうえ、テレビに出ていた方がとても楽しそうに働いていたんです。私にもできるかもと思い、早速会社に問い合わせました」

面接やマッチングを経て決まった訪問先は、4歳の男の子と2歳の女の子がいる共働き夫婦の家。週に1回、2時間半で、料理を8品作り、トイレ掃除をする。

通勤の1時間の間に段取りを考え、依頼先に着くとタイマーをセット。集中して材料を刻み、順々に火を通して料理を作っていく。ずっと立ちっぱなしだ。

「奥様は家にいても書斎にこもっているので、お話は必要最低限。『何か食べたいものはありますか?』と聞いても、『わからないのでお任せします』とおっしゃる。東京の下町で、隣近所とおかずのやり取りをするような私の暮らしとは大違い。最初は気後れしました」

パートで働いたことはあったが、多くの時間を専業主婦として3人の子育てをしてきた瑞恵さん。家庭料理はひと通り作れるけれど、自信があるというほどではない。自分の料理で満足してもらえているのか。初めは戸惑いもあった。

「でも私の作るものはおいしい、私が来るだけで安心すると奥様に言われました。信頼されていると思うと、ますます張り切って、たとえば麻婆ナスでも、子ども用と大人用ではラー油で辛さの加減を変えたり、ブロッコリーの茹で加減を、子ども用に調節したり、自分なりの工夫も生まれて」

好き嫌いの多い子どもに食べさせるにはどうしたらいいかと、育児相談をされるようになる。