日本では3000年前の建物に住んでいる人はいないでしょうけど、イタリアではそれが特別なことではないのですね。ちなみに私の家は、元は修道院だった14世紀の建物です。できるだけ当時の様子を残しつつ、1年がかりでリノベーションを施しました。

ヨーロッパでは、建物だけでなく、代々伝わってきた家具などは直して使うのが一般的ですし、専門の職人もいます。私も、古い建物で暮らすなら時代を経た家具が合うだろうと思い、アンティークのものを求めました。ところがすべて古い家具にしたら、空間がちょっと重い感じになってしまって。 モダンな家具と組み合わせるべきだったと後悔し、お店に相談すると、なんと購入した時と同じ値段で引き取ってくれたのです。これには感激しました。 日本にはいつの間にか使い捨ての文化がはびこってしまいましたが、気に入ったモノは長く丁寧に使うことも、「始末のいい暮らし」の基本ですね。私が持っているお鍋で一番古いのは母から贈られたもので、50年以上使っています。

イタリアで買ったリネンの台所用ミトンは、色も素敵で肌触りも抜群。でも3年も使うと先のほうが焦げて穴があいてしまったので、「これはもう使わないな」というリネンのプレスマットを適当に切って、継ぎ当てしました。そうやって手をかけると、別の美、別の価値が生まれ、ますます愛着がわく。もう10年以上使い続けています。

イタリアのリネン製のミトンは、継ぎを当てて10年以上使用中。先が厚くなって使い 心地がさらに良くなったのだそう(撮影:青砥茂樹『使いきる。有元葉子の整理術 衣・食・住・からだ・頭』・講談社より)

私が子どもの頃は、どんなものでも修理したり繕ったりして使い続けるのが普通のことでした。お鍋に穴があくと鋳掛(いかけ)屋さんが直してくれたものです。ことさら「始末のいい暮らし」などと言わなくても、皆さん、そうしていました。

修理しながら使うことは、とても気持ちがよく、楽しいものです。私もできるだけ、気に入ったモノを手に入れ、直しながら大事に使い続けたいと考えています。

有元葉子さん(撮影:竹内章雄)