頻繁に電話をかけてきて

そのうち、Aは実の親と同居するようになった。Aには弟もいたが、親の介護を引き受けるかわりに、実家の不動産と財産をAが相続する約束をしたという。それだけではなく、2時間かけて電車を乗り継いで、夫の実家にも通うようになった。「夫のぶんも孝行に励む」と言っていたが、話しぶりから財産目当てであるのは見え見え。私は少し距離をおこうと思い始めた。

電話は日増しに増え、「私はこんなにがんばっている」とか「親孝行している」という話を聞かされる。今思えば、私以外に話を聞いてくれる人がいなかったのだろう。働いていたときは気がつかなかったけれど、Aと親しく付き合う人はあまりいない。私は夫から、「どんな人でも受け入れてしまう性格」と言われるくらいなので、Aとも仲良くなったけれど、日に日に常軌を逸していく様子に戸惑っていた。

そんな関係が1年半ほど続いた頃、Aはわが家に2~3週間逗留して、京都、神戸、大阪、奈良を観光したいと言うようになった。「一度、今の環境を離れて観光でもしないと、次のステップに進めないの」と懇願するのだ。

介護に駆け回る毎日は、確かに精神的にも体力的にも相当きつかっただろう。けれど私たちは社宅住まいで、毎夜、夫の帰宅時間は遅く、いつ出張を言い渡されるかわからない。国内外を飛び回る夫のために、出張先の気候に合った衣服を選び、手土産を準備するのは私の仕事。それに受験を控えた子供の勉強も大変で、家庭教師を呼んだりと、私も多忙を極めていた。