父も父です。280人中8番の成績で入学した私は、大学進学を考えてもよかったでしょう。しかし私は高卒で就職。父は入学してすぐの家庭訪問で先生に、「これ(私)は家に置いとくのだで(家を継ぐ子だから)。進学はさせん」と、まるで3匹生まれた子猫を仕分けるように勝手に決めたのです。「この家が絶えたら、近所の笑いものになる」というのが理由でした。父は私の人生がどうなろうとまるで興味がないのです。

そんな両親の仲は年々悪くなっていきました。父は昔から、酒を飲みすぎてはネチネチと母をいじめる人でした。母に対して日ごろのストレスをぶつけ、母も負けじと反発する。エスカレートすると、つかみ合いのけんかになり、母が電話してきて私を実家に呼びつけます。父は「どちらが正しいか言え!」と怒鳴りつけ、「俺は哀れだ」と大声でわめく。

一度、母をかばった私に父がつかみかかってきたことがありました。私は倒れてしまいお尻を強打。つかまれた両手首に真っ黒なアザができました。その日私は大腸ポリープの切除を受けたばかりで、安静にするよう医者に言われていたのに。父が暴れたせいで、家の中はめちゃくちゃ。父も顔から流血していました。

このように私の両親は、お世辞にも尊敬できるところがないのです。

 

ハイビームで家を照らし二人の姿を探す

11月のある日、夕食の支度をしていると、自宅の電話が鳴りました。またかと思い、「忙しいんだけど?」と冷たい態度の私。母は「おい、だめだで。来ておくれ」。聞けばまた父が酒に酔って、今にも暴れそうだとのこと。行くと1時間は拘束されます。私は家事を済ませ、22時前に実家にかけつけました。

玄関の灯りは消えており、鍵もかかっている。玄関先で実家の電話にかけると、家の中から電話の呼出音だけが響いてきます。「ああ、ついにどちらかが殺しちゃったかな」と最悪の事態が頭をよぎりました。郵便受けに必死で顔を近づけて臭いをかいでも、ガスや煙の臭いはしないので、火事は起こっていないらしい。裏口かお風呂場か勝手口か、どこかが開いているかもしれません。懐中電灯を持っていないのでなす術がない。