私が結婚をためらう理由はもう一つあった。それは結婚による改姓の問題だ。民法では「結婚すると夫か妻のどちらかの姓を名乗る」と規定されているが、2016年の厚生労働省の統計では、婚姻時に96%の女性が夫の姓を選択している。世間では今も女性が姓を変えるのが当たり前なのだ。
しかし、とあるテレビ局が行ったアンケートでは、「選択的夫婦別姓制度が実現したら自分の姓を名乗りたい」と答えた女性がおよそ3割いたという。つまり3割の女性は仕方なく改姓していることになる。私も改姓に対して社会的な圧力を感じるし、同時にこれまでの自分までなくなってしまいそうで、どうしても嫌だった。
女性にとって結婚とは、生まれ育った家で育んだアイデンティティを捨て去り、男性の色に染まっていくことなのだろうか。「結婚して経済的に夫に依存すると精神の自由が奪われるから、自分は経済的に自立できる職業に就こう」と思った私は、大学の教職課程を修了し、卒業後は学習塾の経営と講師を始めた。
「あなたは父親とは言えない」役所で突きつけられた現実
結婚について否定的な私にも、20代前半には人並みにAという彼氏ができた。両親から自立して生きていくには、やはりパートナーが必要だろうと、結婚に肯定的な気持ちも生まれてきたのだ。でも結婚すれば改姓は免れない。それは嫌だな。そう思いながら、彼と同棲生活を始めた。
20代後半になって、Aとの子を妊娠。私は自然な流れとして産みたいと思った。妊娠したことを両親に報告すると、「とにかく子どもが生まれる前に一度結婚して」と懇願された。両親には私の結婚観についてそれとなく話していたので、子どもができても「結婚しない」と私が結論づけてしまうのが怖かったのだろう。