両親の夢でもあった私の結婚式を見せてあげたいという気持ちになり、妊娠5ヵ月目にAの実家のお寺で式をあげた。その時、僧侶であるAの父親から婚姻届を渡されて、役所に提出するように言われた。2人でどちらの姓を名乗るか検討したけれど、お互い自分の姓を譲らなかったので婚姻届を出せなかった。別姓のままで届を提出してみるという方法も考えたが、どうせ受理されないだろう、と。
結局、「婚姻届を出さずに子どもを育てよう。どこまでやれるかやってみよう」と決心。両親や親戚は反対するに決まっている。説明しても理解されそうもないので、何も伝えなかった。通らない意見を主張して言い争うのは無駄なことだし、親戚とは穏便な関係でいたほうがいいだろうと思ったのだ。
生まれた娘の出生届はAが提出に行った。父親の欄にAの名前を書いていたけれど、「婚姻届が未提出なので、あなたは父親とは言えない」と、名前の上に取り消し線を引かれてしまったという。窓口の男性が無言でジロリと睨んできたので「父親ならきちんと婚姻届を出してけじめをつけろ」と言われたような気がした、と少しショックを受けたようだ。
だからといって、「やっぱり結婚しよう」というのも違う。どこまでやれるかやってみようと決めたのだから、この事態を楽しもうと話し合った。たいていの人々が当たり前のこととして受け入れる事柄に引っかかってしまう自分を厄介だと思う半面、なんだか面白くもあった。
婚姻届を出さずに子どもを産むということは、戸籍などの父親欄が空白になるということだ。それを世間では「非嫡出子」と呼び、差別的な扱いを受けることも多い。国は、婚姻届の夫の欄に記された人物のみを父親と認める。たとえ実の父親ではなくても届を出していれば、法律的には父親になる。
娘の戸籍の続柄欄には、ただ「子」と記されていた。未婚の子であるから、長女も次女もなく、何人産んでも「子」。私は、この記載はかえって清々しいと思った。子どもたちも、長男・次男・長女・次女といった序列から解放されるわけだ。