「おばちゃんに注意されたことのある人!」と呼びかけると「はーい!」と一斉に手が挙がる。屈託のない笑顔にお互いの信頼関係が見てとれた

親からのお土産や差し入れは断り、お茶当番もなし。「お金がなくて野球をあきらめる子がいないように」「子どもに自分のことは自分でと言う以上、監督やコーチの世話を親が焼く姿なんて見せられない」という安子さんの思いが表れている。

「12歳を過ぎると子どもは思春期に入り、親の言葉を素直に聞かなくなる。それまでに身につけるべきことを徹底して教えれば、大きく道を踏み外すことはない」というのが安子さんの信念である。

 

動いても体は減らない

九州生まれの長一さんは、父親ほどではないが、箸一本自分では動かさない人。子どものしつけや教育も安子さんに一任されていた。

といっても、夫も文句の言いようのない教育だっただろう。「長男に権限をもたせ、長男の号令ひとつできょうだいが動くように教えました」というのだから。かといって、長男だからとちやほや甘やかすことはなかった。5人全員がリトルウルフで野球をしたが、帰宅後にユニフォームを自分で洗い、翌日のお茶の準備をするのはみんな同じ。自立心と礼儀を身につけて育ったきょうだいは全員独立し、11人の孫もすでに成人した。