偽りなく正直に自分の気持ちを伝えようと

杉山 私は大坂選手に何度もインタビューしていますが、彼女はどちらかというと人見知りでシャイ。大舞台で力を発揮するあのダイナミックなプレーとは真逆の、とても繊細な面を持っている印象があります。一方で、人に注目されることは嫌いではない。そんな彼女の性格的なギャップみたいなものは、私も接してきたなかで感じています。

田中 愛さんにお聞きしたかったのですが、大坂選手がSNSで会見拒否を表明した時、主語が「私」ではなく「我々」でした。あれはどういう意味だったのでしょう。

杉山 テニスでは、負けた直後は誰でもすごく心乱れるというか、日常で味わうことのない激しい屈辱や敗北感を味わうものです。私の現役時代は、事前に少しでもメンタルトレーナーやスタッフと話してから会見に臨めればベストだと思ってそうしていましたが、中には試合後そのままの勢いで記者会見場に行ってしまう人もいます。

田中 まだ客観的な整理ができていない心理状態の時に、厳しい質問を投げられたりすると、ダメージが大きい。

杉山 ええ。そういう場面を見ると、こちらも心苦しくなる時があります。優しさを持ち合わせている大坂選手だから、「我々」は、超トップクラスの、同様に嫌な思いをした選手たちをさして言ったのでしょう。

田中 なるほど。また、大坂選手はどんな質問にも本当に真摯に答えようとしている印象があります。そうした姿勢も心理的な負荷を増やしているのではないかと思うのですが。

杉山 おっしゃる通り、すごくピュアで、偽りなく正直に自分の気持ちを伝えようとします。だから苦しくなってしまう。私は全仏の前哨戦でローマにいた大坂選手に、リモートで1対1のインタビューをしました。彼女は私の英語での質問を必ずもう一度復唱して、「うーん」と考えてから自分の意見を言うのです。本当に1問1問、真剣に答えてくれて。

田中 誠実で手を抜くことができないのでしょうか。トップ選手特有の完璧主義的な部分かも。

杉山 はい。彼女もコート上では完璧主義の部分を少しずつ手放し、自分を許すことが上手になってきています。その結果、最近ハードコートで安定した成績を残せるようになった。テニスの技術を磨くのと同様、記者会見を含めてコート外でもうまくストレスマネジメントすることが、今後のツアー生活で1つのカギになると思います。