隔離されたホテルで療養するうち

「夫は発熱して入院しましたが、私自身は、陽性判明後、ホテル療養になったのです」

隔離されたホテルでの療養は、〈闘病〉からはほど遠いものだった。この出来事がマチコさんに大きな決断を迫ることになる。

「発熱もなく、これといった症状もありませんから、ただただ不安で、時間を持て余す日々。寝て起きて食べるだけ。こんな時間を過ごしたのは生まれて初めてでした」

24歳で結婚し、3人の子どもを育て上げ、アマチュアビッグバンドでウッドベースを担当する演奏家として、貸しスタジオの経営者として、走り続けてきた日々に突如訪れた強制的休止符。マチコさんにとっては苦痛以外の何物でもなかった。

「でも隔離生活に入るときに、くよくよ悩むのはやめようと決意しました。指示されることばかりだからこそ、自分で決める時間を大切にしようと。朝起きたら、今日はバッハ、明日はベートーベンと、目覚めの曲選び。自分なりの日課を決め、克明に日々の記録を取り、何を感じ、何を考えたかを綴ることにしました。出された食事の内容まで細かく書き込んで」