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不意打ちで襲われた病気の後、人はどのように気持ちを立て直すのか。生きる気力を取り戻した4人にお話を聞いた。3人目はミサトさん(62歳)。ある日、美里さんを激しい頭痛が襲い――(取材・文=島内晴美)

かすれる声で「すぐ来て」と救急車を呼んだ

7年前のある夜のこと。「お先に!」と言って夫は2階の寝室に引き上げた。息子2人は自立して家を出ており、静かな夫婦2人暮らし。紅茶を飲み、雑誌を手に取り、テレビを見るともなく見ながら、いつものようにまったりした時間を満喫していたそのとき、激しい頭痛に見舞われたミサトさん(62歳)。

それは頭痛という言葉では表せない未知の感覚だった。何より声が出ないため、2階の夫を呼ぶことができない。近くの電話を引き寄せて119を押した。かすれる声で「すぐ来て」と救急車を呼び、かろうじて住所を告げたところで意識が途切れた。

「サイレンの音で夫が起き、玄関を開けてくれたのでしょう。私自身は意識がなく、救急車に乗せられたことすら覚えていません」

くも膜下出血だった。緊急手術を受け、ICUから一般病棟に移るまで、自分が生きているのか、死んでいるのか、夢なのか、現実なのか定かではない日々が続く。

「自分がくも膜下出血で倒れたんだと自覚するまで、何日もかかったんです。幸い後遺症はありませんでしたが、どうして自分はこんな目に遭うのだろうかと打ちのめされて、生きていく自信がなくなりました」

からだは徐々に恢復する。リハビリのため病院の廊下を歩き、体力も戻り、やがて退院の日が近づく。

「夫も息子たちも心配して、交代で顔を出してくれました。みんな仕事がたいへんなのに、と思うと申し訳なくて」