2021年7月、公演のあと宮崎の空港で、歌について語る西脇さん〈写真:ベイビーブーさん提供〉

生涯プロ活動宣言

戦前に生まれ、令和まで現役で活躍した西脇さん。2015年には雑誌『中央公論』の特集「戦後70年 日本を問い直す」のなかで、音楽文化評論家の長田暁二さん、歌手で女優の倍賞千恵子さんと戦争について語った。

「僕が子どもの頃は国民学校の二期生ですから、中身を知るも知らないも、歌は軍歌しかなかった。日清戦争、日露戦争、その後の日中戦争。戦争の度に作られた軍歌が僕らの頭の中に刷り込まれているのです。

最初に教わったのは「敵は幾万」(明治24)。『♪敵は幾万ありとても すべて烏合の勢なるぞ~』。戦国時代を思い浮かべて聴いていました。次第に、外国との戦いの歌もイメージするようになる。子どものときに好きだったのは「雪の進軍」(明治28)という歌」

「子どもの頃は歌詞の深い意味もわからず、自分の中に刷り込まれた歌だから好きだったのかもしれません。ですが、実際に太平洋戦争を経て、歌の持つ悲惨さ、悲壮さというのが、実感できるようになりました。日露戦争直後の歌『戦友』(明治38)は悲劇がよくあらわれています。隣にいた友が俄かに……」

「戦争を肯定するため、人の闘争心を高揚させる歌であったとしても、振り返ってみれば軍歌には戦争の背景を映す一つの歴史が示されているのではないでしょうか。縦書きの格式ばった文章もいいですが、歌というのは斜めに早く読めますよね。だから歌をなぞるだけで戦争の歴史が見えてくるはずです」

(『中央公論』2015年9月号「座談会・唄は世につれ、世は人につれ 誰もが軍歌を口ずさんでいた」より)

また、2019年には同雑誌にメンバー4人で登場し、息の合ったトークを展開。「コーラスにはメロディーを支える脇役の面白さがある」というバリトンの鹿島さんに、以下のように返していた。

「脇役という表現もあるとは思うけれども、要するに4人で一軒の家を建てているイメージです。土台がバリトン、セカンドが支柱、テナーの僕は屋根かな。メロディーの6割はテナーですが時には避雷針になったり、セカンド・テナーが屋根になったり。そこが面白い」

(『中央公論』2019年7月号特集「定年消滅 人生100年をどう働くか」内「計306歳の4人が、60年間歌い続けられた理由」より)

また、座談会の最後には「僕は混声合唱団を指導しているんですが、『ベイビーブー』のようなコーラスグループがもっと現れてほしいし、育てたいと思っています」と後輩への思いを語っている。

そのプロフィール欄には「生涯プロ活動を宣言。酒とタバコがやめられない…」と書かれていた。