対象を孤立化させるためのPR作戦

精神科医の中井久夫さんは、「いじめの政治学」という論文のなかで「いじめ」を「人間が他人を支配して言いなりにしてしまうプロセスではないか」と分析しました (注3)。

中井さんはそのプロセスの第一段階を「孤立化」と命名します。いじめられる側に仲間がたくさんいたのでは、いじめは長続きしません。その人を孤立化させる必要があるというわけです。

この孤立化作戦のポイントは「いじめられるのは、いじめられるだけの理由がある」というPR作戦にあります。最悪なのは、先生が「A君の側にもみんなに非難されるような、直さないといけないところがある」と思うことです。いじめられる側にも問題があると思う教師の心の隙を、いじめる子どもたちは目ざとくキャッチし、自分たちを勇気づけます。

『いじめの政治学』(中井久夫著)

 

子どもたちにきいても、いじめられる側にも問題がある、理由があればいじめられても仕方ないと思っている子どもが実に多いことに驚きます。

このPR作戦を失敗させられるかどうかが、いじめ、あるいはバッシングをとめる第一関門に他なりません。

PR作戦に対抗できるのは、その人にどんな弱点や問題があっても、そのことはいじめ、あるいはバッシングしていい理由にならないというシンプルな考えです。これはじつは、「すべての人間に尊厳と基本的人権がある」ということ、「それを侵害する特権は誰にもない」という民主主義の精神の、血肉をもった承認です。どんな理由もいじめていい理由になりえず、この世の中にいじめられていい人間は一人もいない。ここからブレない大人が子どものまわりに多くいてほしいものです。