宇良の危険なほどの勝利への執念

今場所、最も感動したのは、10日目の照ノ富士と前頭六枚目・宇良との対戦だ。照ノ富士は大関から怪我と病気で序二段に転落してから横綱になり、宇良は怪我で前頭四枚目から序二段に落ち、そこから前頭六枚目になった。苦闘の這い上がり力士同士の初顔合わせである。なぜ結びの一番でふたりが相撲を取れたかを理解できる大相撲だった。

宇良は照ノ富士の足を取りにいったりし、照ノ富士は廻しが取れたら離さない。1分32秒で照ノ富士の上手投げで宇良は負けたが、宇良は体が裏返しになっても照ノ富士の廻しを右手でつかみ、さらに左手でもつかもうとしてぶらさがっていた。危険なほどの勝利への執念だ。この一番を見て、今後、宇良を投げて勝った力士は、まだ宇良が廻しにひっついていないか行司とともに確認した方が良いとさえ思った。

私は今場所、さらに大相撲から人生を学んだ。照ノ富士は横綱という力士あこがれの地位についたが、膝が悪かろうが、土俵入りで体力を使おうが、力士たちは遠慮なくあの手この手で挑んでくる。その力士たちをひっぱたいたりせず、堂々とした「横綱相撲」で対応していた。

私は60代になったらゆとりのある生活ができると思っていたが、母と兄のダブル認知症、自分の病気、それがすんだら資金難と、次々と困難が湧いてきている。やけになって友人に愚痴ろうとしたが、コロナ禍での収入減、家族の介護、闘病中の人ばかりだ。照ノ富士のように、なにがあっても不動心を心がけて、11月の大相撲九州場所を期待しながら、謙虚に一日一日を暮らしていこうと決めた。大相撲は本当にためになる。
 

照ノ富士に仁王の迫力を感じたというしろぼしさん(写真提供◎AC)

 

※「しろぼしマーサ」誕生のきっかけとなった読者体験手記「初代若乃花に魅せられ相撲ファン歴60年。来世こそ男に生まれ変わって大横綱になりたい」はこちら

 

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