しかし約3年前、伯父の近所の人から、「伯父様、庭先で亡くなっていました」との連絡が。心不全だった。

「もう、途方に暮れました。まず、伯父の交友関係なんて知らないし、親族は亡くなった母しか浮かばない。アドレス帳や携帯電話の電話帳もチェックしたけれど、親密度は不明。訃報を誰に伝えたらいいのか、まったくわからないんです。結局、葬儀はせず、僕ひとりで火葬し、母の実家のお墓に納骨しました」

 

相続なんて、放棄したいくらいで

やっかいだったのは、相続だ。伯父には、預貯金、自宅、経営するアパートなどの資産があったが、遺言書がなかったため、伯父の出生から死亡までの戸籍謄本を取り寄せ、相続権利者を確定、その全員の承諾を得ない限り相続が頓挫してしまう状況になったのだ。

「正直、煩わしくて逃げたかった。僕は、漁業さえできればそれで十分。面倒な手続きが必要な相続なんて、放棄したいくらいで。でも、放棄するとアパートの経営がどうなってしまうかわからないし、住人に迷惑がかかるかもしれない。住人は居住歴の長い方が多く、僕は月イチの見回りをきっかけに親しくなっていたんです。だから、それは避けたかった。弁護士に一任したところ、驚くことに、母と伯父にはすでに亡くなった姉がいて、その息子が健在だということが判明したんです」

母と伯父がなぜ姉の存在を隠していたのか、今となっては知る由もない。ただ、弁護士によると、その姉は、若い頃に家出し、以来、家族と一切関係を絶っていたようだという。

突然現れた従兄弟は、「遺産をすべて折半してほしい」と要求。異論のない靖典さんは伯父の家を売却して現金化し、預貯金と合わせてその半分を渡した。が、アパートの敷地売却だけは、住人を追い出すことになるため断固拒否。管理は靖典さんが担当し、管理費以外の家賃収入を全額渡すことで丸く収めたそうだ。

「もうひとつ大変だったのは、伯父の自宅の整理。とにかくモノが多く、ひとりで対処するには1週間はかかりそうなありさまでした。そこで専門業者に、明らかなゴミ、遺族にとっては大切かもしれないもの、貴重品などを大まかに分ける作業を頼んだのです。僕も立ち会ったのですが、僕のお食い初め、七五三などの写真がいっぱい出てきて。伯父に愛されていたんだなって、涙が止まらなかった」

何はともあれ、伯父が遺言を残していなかったがために、複雑な相続問題に振り回された靖典さんは、遺言の重要性を痛感した。その後、親しい知人を遺言執行者とし、弁護士に遺言書を預けたという。

「僕は独身だから、死後の遺族は、面識のなかったあの強欲な従兄弟ただひとり。彼に僕の財産を残すのは、断じてごめんです。それで、遺言書には『全財産、恵まれない子どもたちの施設に寄付します』と明記しました。遺言は、いくらでも書き換えられます。もし今後、愛する家族ができたら、改めるつもりです」