「精神科医として最終的に思うのは、《人の幸せとは何か》。絵に描いたような幸せなんてむしろ少ない」(春日さん)

親の生き方を反復してしまう

春日 精神科医として最終的に思うのは、「人の幸せとは何か」。絵に描いたような幸せなんてむしろ少ない。他人には不幸に見えても、当人にはそれが生きる手応えであったり、一種の贖罪(しょくざい)であったり。それはやはり不健康だと以前は思っていたけど、最近は脱力傾向です。(笑)

山田 それが大人同士ならいいけれど、子どもと大人になると……。

春日 子どもを巻き込むのは卑劣だね。生活に困窮している人たちが多い地域の病院で働いていたときなんですが、生活保護費が増えるからと子どもを5人くらいつくる親がいるんです。訪問すると、一番上の中学生のお姉ちゃんが赤ん坊背負って出てきたりして、「今の願いは?」って聞いたら、「せめて卒業式は出たい」。

山田 でも、間違えちゃいけないのは、「親がああだから、どうせあの家は子どもも……」っていう安易な偏見でものを言うこと。そういうステレオタイプな意見を聞くと私のセンサーが反応してしまうんです。

春日 確かにその通りなんだけれど。でも、見ていると、じたばたしているのに、やっぱりいつの間にか親の生き方を反復しちゃうケースが、多いんですよね。

山田 その、抜けられない輪をどうにかするために行政の力は大きいと思うんですけど、全然追いつかない、と同時に、行政の助けに加わろうとしない人たちも多い。