12時間飲みっぱなしの徹夜麻雀

実は離職率が高いだけではなく、離婚率もかなり高いのがMRという職業。結婚を3、4度繰り返す人もざらにいます。夫が毎晩飲み歩いて午前様、休日もゴルフばかりで家に帰ってこなかったとしたら……推して知るべし。

我が家の場合、もともと同じ職種だったこともあり、夫の残業・休日出勤にはかなり寛大なほう。しかし一度だけ、「あの先生との付き合いはもうやめて」と言ったことがあります。

その方は、ある地方の開業医でした。T医師は東京の大学病院にしばらく勤務した後、実家の病院を継ぐために40代で帰郷。甘やかされて成長した者特有の身勝手さが、顔にも表れていました。

勤務医時代に知り合った看護師を妻として連れて帰ったので、公私ともに窮屈な毎日を過ごしていたのかもしれません。ほかに女性を作ろうにも、狭い田舎町ではすぐ知れ渡るため、断念。結果、そのストレスを解消するために、賭け麻雀、ゴルフ、酒に走ったようです。

麻雀も、最初のうちは出入りのMRを誘って、ささやかにしていましたが、だんだん賭け率が高くなり、回数も時間も増えていきました。夫が気に入られて、頻繁に誘われていた頃がピークだったのでしょう。週2回から3回、しかも夕方6時半から翌朝の6時半まで12時間飲みっぱなしの徹夜麻雀が普通となっていました。

病院は9時から診察開始。T医師は、徹夜明けの状態で診察をしていたというのですから、開いた口が塞がりません。どんな顔をして「生活習慣に気をつけましょう」と言っていたのでしょうか。

医師としての力量は大したことがありませんでしたが、麻雀の腕前はピカイチ。学生時代にかじった程度の夫では歯が立たず、たちまちカモにされるようになりました。一晩で10万円近く負けたことも。私も見るに見かねて、夫に距離を置くように忠告したのです。ありがたいことに、その頃夫の異動が決まり、T医師とは縁が切れました。

風の噂では、出入りのMR全員に悪評が広がり、メンバー集めに苦労するようになった先生は、町の人たちを誘ったとか。おそらく患者さんも含まれていたことでしょう。そこでも大勝したため、恨みを買った誰かに、愛車のベンツを燃やされたと聞きました。

それも今は昔。7年ほど前から、製薬会社による医師への過度な接待は、業界として厳しく規制されるようになりました。夫も一時期に比べてずいぶん早く家に帰ってきています。

高級レストランでのもてなしが少なくなった先生たちは不満たらたらでしょうが、この規制が夫のようなMRだけでなく、医師たち自身の寿命を延ばしたことは間違いありません。

 


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