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自分の命を預けているからこそ、医師には健康でいてほしい……。それは贅沢な願いなのでしょうか。13年前、製薬会社のMRとして働いていた高木さん(仮名)は、「健康」からほど遠い医師たちをたくさん見てきたと言います。(「読者体験手記」より)

名のある料亭や高級レストランで

大門未知子が大ピンチに陥った患者を“神の手”で助けた後、焼き肉店で肉をがっつく……。テレビドラマ『ドクターX』でたびたび登場するシーン。それを見ると、昔の記憶が蘇ります。

13年前、私はある製薬メーカーでMRとして働いていました。MRとは医薬情報担当者のことで、簡単に言えば、医師を訪問して自社の医薬品を売り込む職業。私も毎日、資料を片手に、担当地域の開業医や勤務医を回っていました。

診療が終わるまで廊下で待ち、迷惑そうな顔をした医師を相手に、力を入れている薬の説明をする。そして、週に何度かは偉い先生の接待。こちらもなんとか薬を採用してもらおうと必死ですから、名のある料亭や高級レストランで彼らをもてなします。

そうして多くの医師と付き合ううちに、「医者の不養生」とはよく言ったものだと思うようになりました。それほど彼らの生活は、「健康」からほど遠かったのです。

概して外科医は、手術のストレスからか、暴飲暴食で羽目を外しがち。とくに勤務医の場合は、上司からのプレッシャーが加わるため、フラストレーションもたまる一方です。宴会を開けば、飲めや歌えのどんちゃん騒ぎ。ビールや日本酒、ウイスキーに焼酎と、次々にグラスが空いていきます。解放されるのは決まって夜も明ける頃。医師もそんな生活をしていて、体が悲鳴を上げないわけがありません。

事実、ストレスや暴飲暴食のためか、肝臓や消化器系の病気になる人も多いのです。私が当時担当していた先生の中には、若くしてすでに鬼籍に入られた人が何人もいます。

精神科の医師は、まったく別の意味で気を使いました。精神科医の場合、真面目な人ほど患者の症状の影響を受けやすいと言われます。ある先生は、能面のように無表情かと思えば、突然堰(せき)を切ったように話し出す。素人目から見ても、先生、もしかして……という様子でした。

もちろん、個性豊かな医師たちと、昼夜問わず付き合うこちらの疲労も相当なもの。ですから、男女ともに離職率は非常に高い。実は私もご多分に漏れず、30歳を過ぎた頃、体を壊してしまい、当時付き合っていた同期のMRと結婚したのを機に、退職したのです。