若い頃にやんちゃしてた健ちゃんならやりかねない

「200万円」と健は答えた。友人と大手建設会社の株を買ったのだが、損を出した。そんなときに、友人から会社の金庫のカギを預かってくれと言われ、出来心で300万円着服してしまった。悪いことに、今日は終業後に会計監査のある日で、それまでに穴埋めしておかなければ警察沙汰になるという。話を聞きつつ、私は「若い頃にやんちゃしてた健ちゃんならやりかねない」と思っていた。

「本当に困っていて。来週には必ず返すし、借用書も作ってもらっていいから」

「だったら、消費者金融にお金を借りに行ったら? すぐに貸してくれるよ」

「初回は50万円しか借りられないんだって」

「健ちゃんなら、貯金あるでしょう」

「いろいろあってね……。なんとか100万円は用意できたんだけど、今日中にあと200万円用意しないといけない」

健ちゃんのかわいい娘と奥さんの顔が頭に浮かぶ。私はパニック状態になった。

「今すぐ銀行に行かないと間に合わないわね」

私は夫の教えを忘れ、腹をくくった。携帯電話の番号を教えられたとき、今どき珍しい070から始まることに少しひっかかったものの、そのままにしてしまった。

それから1時間半後、銀行の窓口で引き出しの手続きを行った。最後に窓口の男性から「何にお使いになりますか?」と聞かれ、本当のことを言うと下ろせないと思い、とっさに「娘のニューヨーク行きの旅費です」とサラッとをついてしまった。

男性は「大きな額を下ろされる場合、本来ならば警察官に来てもらうところなのですが、理由がおありですのでこのままお渡しします」と札束を私に渡した。帰り際には、「くれぐれも気をつけてください」と丁寧に言われる。「はい、大丈夫です」と私は答え、200万円の束の重さを感じながら銀行を出た。