電話の指示を受けて200万円を手渡すと

近くのスーパーに入り、ベンチに座って電話をかけるときはさすがにドキドキした。

「健ちゃん、200万円下ろしたよ」と小声で言う。

「ありがとう。急いでいたから、行く途中に車で事故を起こしちゃって……。いま警察に調書を取られているから、一度切るね」

電車で来るほうがずっと早いのに、ドジな健ちゃん。腹を立てながら待っていたら、またかかってきた。「ぶつけた車の持ち主が来るのを待っているんだけど、時間がかかる。とうてい間に合わない」。そこでまた切れて、三たびかかってきた。30分後に着くようバイク便を頼んだから、駅前で渡してほしいと言う。

「袋で梱包して、中身を食品と書いておいて」

急いでコンビニに行き、紙袋を買って札束を梱包した。包みながら惜しくなってきて、「100万円だけにしようかしら」という考えが浮かんだが、足りなければ健ちゃんは捕まってしまうだろう。もうこうなったら信じるしかない。

「用意できたよ」と電話をすると、どんな服装をしているかと聞かれた。このときも、バイク便の人に伝えるためだろうと、正直に答えてしまった。私はまるで魔法にかかったかのように、言われるがままに動いていた。

「コンビニの横に道があるでしょう。そこに立っているバイク便の人に渡して。目立たないように」と指示してきたので、なんだか変だと感じた。まるでこちらを見ているような電話だ。だが、「このことはおやじやおふくろに言わないで」と一方的に言って切れた。