貯金を巻き上げようと獲物を狙う身内の金食い虫に、詐欺師……平穏な老後を夢見ていたのにトラブルに巻き込まれてしまった人の体験談を。夫を亡くして一人暮らしをしていた三原さん(仮名、76歳)はある日電話がかかってきて――
「ああ、健ちゃん、お久しぶりね。元気?」
数年前の10月のことだ。昼食後にお気に入りのドラマを見ていたら、電話がかかってきた。
出ると、「知江おばちゃん」と若い男性が呼びかけてくる。「誰?」と問うと、「健だよ」と答えた。東京に住んでいる甥っ子だ。
「ああ、健ちゃん、お久しぶりね。元気?」
「明日の午前中、おばちゃんの家の近くで仕事があるんだけど、終わったら行ってもいいかな」
「いいわよ、ランチを一緒に食べましょうか」
「僕がお昼を買っていくから。また電話する」
「待っているね」と言い、私は電話を切った。
次の日。3年前に夫が亡くなって以来、お客さまは久しぶりなので心待ちにしていたら、正午ちょっと前に電話がかかってきた。
「話が長引いていて、遅れそう」
「どのくらい? 2時頃までならいいわよ」と言うと、どうやら隣に誰かいる気配がする。
「言いにくいんだけど、お金を借りたくて」
亡き夫が「どんなに親しくても、金の貸し借りは絶対してはいけない」と言っていたのを思い出したが、「なんで? いくらなの?」と聞いてしまう。