「わかった。うちにおいで」
「私にはすがれる相手が一人もいないんだな……と、無性に寂しくなって。無意識に『助けて、美里』と呟いていたんです。もしかしたら潜在意識で、『夫で躓いた同士』を求めたのかもしれません。10年ぶりだというのに、なぜか躊躇なく彼女に電話していました」
「久しぶり!」。わずかなわだかまりさえ含まない朗らかな親友の声を耳にするや否や、「お願い、助けて!」と口走った光代さん。美里さんは何も尋ねず、「わかった。うちにおいで」と誘った。
美里さんの高校生になる娘たちも光代さんをよく覚えていて、突然の来訪を歓迎。焼きたてのクッキーを振る舞ってくれた。
「夫の不倫について語り始めると、まず娘たちが『そんな男、捨てちゃえ!』『慰謝料をぶん取ってやれ!』と、私の本音を代弁。最後に美里が、『心の整理がつくまで、うちにいな』って。こんなに素敵な人たちをある意味敵視していた自分が、恥ずかしくてたまらなくなりました。そして、もう二度と手放さないと誓ったんです」
さんざん愚痴を吐き出した光代さんは、3泊4日で美里さんの家を後に。帰り道、役所で離婚届をもらいサインすると、夫に「好きなときに提出して」と突きつけた。3日後にはパートの仕事を見つけ、自立の道を歩み始めたという。
「子どもを立派に育てている美里に比べれば、自分一人養うくらい簡単だと自信が持てたんです」
離婚はとんとん拍子に進み、折半した財産と慰謝料で美里さん宅の近くに小さなマンションを購入した。仕事が休みの日はどちらかの家に集合、独身同士「早く恋人、欲しいね」などと、高校時代のように無気でとりとめもない会話を楽しんでいる。
*
年齢を重ねるにつれ、当たり障りのない人間関係に終始しがちだ。けれど、時には「助けて」と叫ぶ勇気、そして誰かの「困難」に気づいて手を差し伸べる勇気。この二つを大切にしたい。この世知辛い時代では、きっと重要なファクターになると思うから。