193センチの恵まれた体躯。その全身を使って速球を繰り出す(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

球速160キロの球を投げるというイメージ

「先入観は可能を不可能にする」。この言葉も、大谷の脳と体に今でも染み込んでいるものだ。佐々木監督のかつての言葉を思い出す。

「たとえば、球速160キロの球を投げるというイメージがそもそもなければ、絶対にそこまで辿り着かないものだと思います。できると思う、出せると思うから、そのために頑張る。途中で蓋をしたり、限界を作ってしまっては、自分の可能性を伸ばすことができない」

世間の常識や価値観、そして先入観からくる「物差し」だけで物事を判断してはいけない。

《誰もがやっていないことをやる》
《非常識な発想を持つ》
《自分自身で道を切り開いていく》

恩師の教えから、大谷のそんな思考が深みを増していった。

また、先人を超えようとする意識や姿勢が大事だということも、大谷は佐々木監督から教わった。決して「誰かみたいになりたい」という思考ではなく、あくまでも「目指すべきものの領域を超えたい」という発想を持ち続けなければいけない。そのためにも、より具体的な数値目標や、言葉に落とし込んだ目標設定が重要だということを学んだ。佐々木監督の言葉だ。

「具体的な数値を示すことで、人は目指すべきものが明確になります。目標には、そもそも数字がないといけない。また、計画がセットされていないと目標とは言えません。ですから、選手たちには数値やライバルといった具体的な目標を持たせて、それを達成するための計画を立てるように言い続けています。高校時代の大谷にとっては、160キロという数値が大きな目標になったし、その目標自体が彼を引っ張ってくれたと思います」

大谷が持つ実力、その秘めた能力は、高校時代から何度も見てきた。我々が高校球児に抱くイメージをはるかに超えていく姿を目の当たりにしたものだ。190センチ以上の高身長を感じさせない身のこなしやバランス感覚。打っては、両翼100メートルの球場で、ライトポールのはるか上を越えて場外へ消えていく打球を放ったこともあった。

投げては、高校3年夏の全国高等学校野球選手権岩手大会で、当時のアマチュア最速となる160キロを叩き出した。その一つ一つにポテンシャルの高さを感じたし、天井の見えない期待感を覚えずにはいられなかった。そして、野球の能力に加えて、多くの人が魅了されるのが大谷の内面だ。