プライベートにずけずけと

こちらが黙っているのを、感謝しているとでもとったのか、彼女の質問はだんだんとプライベートなことにまで立ち入ってくるようになる。「あなた、お子さんは?」と聞かれた。うちは結婚当初から子どもは持たないと決めており、「いません」と答えると、「やっぱり鉄分が足りないから、できないのよ」と断言する。

彼女の年代にとっては、結婚・出産コースが王道である。こういった言動に慣れている私は「そうかもしれませんね」とサラリと答えたが、彼女の指南は、基礎体温の測り方から、夫婦生活へとすすんでいく。

その時初めて年齢を聞かれたので、41歳と答えると、「えー、そうなの?」と驚かれた。当時私は若く見られていたので、30代半ばぐらいに思っていたのかもしれない。それはうれしいことではあるが、その後の彼女の言葉に凍りついた。「だったらもう手遅れだわ。昔は子どもを産めない女は石女と言われて、三行半を突き付けられたものなのよ」。

グッと我慢したが、次の言葉に私はキレた。「その年なら養子をとることを考えたほうがいいわ」と言うのだ。赤の他人にそこまで言われる筋合いはない。気づいたら「子ども嫌いなんです」と言葉が口から出ていた。あっけにとられる彼女を尻目に、私はマッサージ機のスイッチも切らずに、とっとと部屋を後にした。それ以来、スポーツクラブに行くのをきっぱりやめている。

今思うと、教師としてバリバリ働いていた彼女は退職後、そのエネルギーを持てあまし、私という格好の生徒を見つけ、自分の持つあらゆる知識、常識を注ぎ込もうとしていたのだと思う。失礼な発言も善意から発せられたのだと信じたい。でも、いくら何でも、「石女」「養子をもらったら」発言は、今なら「女性から女性へのセクハラ」と訴えられるレベルである。

若い女性に不用意に、結婚は? とか子供は? などとは聞いてはいけないな、とあらためて思う。年代も経歴も違う人が集うスポーツクラブという名の社交場。彼女からは人生勉強をさせてもらったと思うことにしよう。そうでも思わなければ、数々の時代錯誤の言葉に今もうなされそうである。


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