ダイナーのテーブルにつくと「オリヒメ」が接客してくれる。こちらはハロウィンの装いで(写真提供:オリィ研究所)

目の前に話者がいるような不思議な気分に

横にあるタブレットに「2013年に慢性疲労症候群という難病になり、STAY HOME生活が続きました。それまでは舞台の音響オペレーターという仕事をしていました。オリヒメの向こうで笑顔で接客している私が伝わると嬉しいです」という紹介文と写真が映し出される。画面がメニュー説明に切り替わり、オーダー。料理が届くまでの間、彼女が話し相手になってくれる。

ウミガメが大好きで、病気になる前はよく小笠原へ一人旅をしていたと言うちふゆさん。
「発症は突然でした。自転車に乗って仕事に行き、帰りには漕げなくなって。病院を転々としましたが検査数値には異常がない。でも具合はどんどん悪くなり、ついに車椅子の生活に。医者にもわかってもらえないのが本当につらかったです。特効薬はないものの、新しい療法で少し状態が良くなったので、この仕事をネットで知ってすぐ応募しました」

慢性疲労症候群の患者は国内に30万人以上いるが、専門医の数は非常に少ない。現実には生活に著しく支障をきたし、約3割の人がほぼ寝たきりとなる。ちふゆさんはSNSなどを使い、病気に関する啓発活動もしているという。

会話に合わせてオリヒメが頷いたり、イルカの胸ビレのような手をひらひら振ったりするたび、目の前に話者がいるような不思議な気分になる。その動きがまたかわいくて、見ていて癒やされるのだ。

「すべて家のパソコンで操作しています。始めたばかりの頃は会話するのに一生懸命で、動きを操作し忘れたり、逆に動きに集中しすぎて無口になったりしたことも」