「人と会った」という感覚が残る

やがて、お運び担当で身長120センチほどの「オリヒメ-D」が静かにすべるようにコーヒーを運んできた。胸元にはパイロットの名前と顔写真、そして初心者マークが。注文したデザートプレートは、ふわふわのシフォンケーキ、桃とサクランボのコンポート、焼き菓子など。どれもとてもおいしい。(厨房は人間のスタッフが担当)

テーブルのオリヒメを通して会話しているうちに、あっという間に30分ほど経ち、「ではごゆっくりお過ごしください」と、ちふゆさんは別のテーブルの操作に移っていった。

私は動かなくなったオリヒメを眺めつつ、静かに感動していた。彼女が話し上手だったこともあるが、コロナ禍が始まって以来、久々に新しく人と知り合い、会話が弾んだことが予想以上に嬉しかったのだ。しかもウェブ会議とは違い、「人と会った」という感覚が残る。

今回の取材ではほかのパイロットにも話を聞いた。受付に立つ大きなオリヒメを担当するミッツさんは、山形在住の元自衛隊員だ。定年まで勤め上げたが、球脊髄性筋萎縮症という遺伝性の難病が悪化し、車椅子生活になって7、8年になる。

「日中、孤独感に襲われて人恋しくなり応募しました。毎日どうやったらもっとお客さんに喜んでもらえるか考えています。この仕事をしているとお子さんから手紙をいただく機会などもあって、そういうときは本当に嬉しいですね」

働いているのは障害がある人だけではない。たとえば札幌からオリヒメを操っているけいさんは、脳性麻痺で24時間の医療的ケアが必要な高校2年生の娘さんがおり、家を空けることができない。

「娘がオリヒメアイという視線入力による意思伝達装置を5年前から使用している関係で、このカフェを知りました。娘は将来、人の役に立つ仕事がしたいと考えていて、もともとは娘ができる仕事を探したことが応募のきっかけです。私も17年ぶりに働くことができて毎日とても楽しいですし、いずれは親子でパイロットをやるのが夢です」

現在こうしたスタッフが約50名、各地からリモート勤務している。

<中編へつづく