ぶつからないことこそが合気道の真髄

ゴルゴ なるほど、素敵ですね! そこでは館長はどういうお話をされるんですか?

武田 不思議なお話で、決して武勇伝ではないんですよ。私がとても好きなのは、館長が道場をかまえたばかりの頃の日常のお話。

勤め人の方たちに向けて早朝6時半から稽古を行っているのですが、館長のご自宅から道場までが遠いので、ある日遅刻しそうになり、赤信号にもかかわらず走って横断しようとしたそうです。そうしたら孫の手を引いた温厚そうな老紳士に、大きな声で「赤ですよ!」と注意された。

館長はすぐに横断歩道の前に戻り、深々と頭を下げて何度も謝った。ご老人は「いやいや、そこまで謝ることではない。私こそ孫の前だからと格好つけて、大きな声を出してしまった」と、早朝の街でふたりして頭の下げあいになった。

このとき、館長は少し合気道を理解できたのだそうです。合気道の精神は「ぶつからないこと」。「敵をつくらないこと」。紛争の場面でも力と力でぶつからず、かわし合う。

このあと、ご老人は朝ご飯を食べながら、「気持ちの良い青年だったな」と私のことを思い出す。私は道場へ向かう電車の中で「孫思いの優しい方だったな」とご老人のことを思い出す。お互いとてもよい一日のスタートを切った。これが合気道なんだ、と。

ゴルゴ すごくいいお話ですね! ぶつからないことこそが真髄。もしかすると、先ほどの内田さんの「敵を愛する」というお話や、植芝さんの合気道の「合」は「愛」でもある、という言葉は、ここにつながっているのかもしれません。