100万円の借金を背負って来日
超高齢社会になった今、彼らは日本社会で「労働力」として期待されている。だが、彼らの労働環境は、決していいとは言えない。労働時間や安全基準などの法律が順守されない、残業してもその分の賃金が支払われないなど、問題点も多い。
20年の厚生労働省「外国人雇用状況」によると、外国人労働者数ではベトナム人が1位。44万3998人がわが国で働いている。19年と比べて約10%の増加だ。その半数が実習生。一方で、厳しい労働環境から逃げ出した実習生も全体で約1万人いる。
前出のリンさんも、ベトナムの送り出し機関に総額100万円を支払った。30万円は6ヵ月間の訓練センターでの研修費だが、残りの70万円は、飛行機代やビザ申請に必要だと言われ、疑問も持たずに支払ったという。その100万円は父親が家や田畑を担保に銀行から全額借りたものだ。リンさん同様に、実習生のほとんどが借金を背負って来日している。
「私が危険な仕事をしているので、家族はケガをしないか、体調を崩さないか心配していました。しかし会社の人に嫌とは言えず、かといって仕事を辞めれば収入がなくなって、ベトナムに送金できない。借金だけが残る。だから自炊して節約して、つらくても我慢して暮らしました」(リンさん)
毎日午前8時から午後5時まで働いた。ワンルームのアパートではもう一人の実習生と生活を共にし、2万5000円ずつ家賃を支払う。給料は月13万円程度なので、最低限の生活費を残し、全額仕送りに。月に8~10万円を送っていたという。1年2ヵ月働いたが、コロナ不況で解雇されたため、借金があと25万円残っている。
「日本人にも良い人、悪い人がいる。それはベトナム人でも同じ。仕事は大変だったけれど、交通は便利だし、風景がきれいだった。帰国したら、バイクの修理をやりたいと思っている」
とリンさんは控えめに話すが、日本滞在によって心に受けた傷は計り知れない。