本堂の一角に収められているたくさんの位牌。すべてベトナム人のものだ

 

不慮の死を遂げた位牌が並んで

「日本のNPOや支援団体は、物資の支援はしてくれますが、精神的ケアにまでは至っていません。ベトナム人は仏教徒が多く、お寺にメンタルケアを求めて来るのです。ベトナムには自殺の文化はないのですが、日本に来た実習生たちのうち12人が、これまでの3年間で自らの命を絶っています」(タム・チーさん)

また若くて元気だった実習生の突然死も増えた。過労による心不全なのか、死因ははっきりとはわからない。タム・チーさんは火葬された遺骨を寺で供養し、故郷の遺族のもとに返してきたという。

大恩寺の本堂には不慮の死を遂げた位牌がたくさん並んでいた。背景には、ストレス、周囲に相談できる人がいない孤立感、日本語がうまく通じないといった、一人では簡単に解決できない問題がある。

そしてタム・チーさんが今いちばん危惧しているのは、「医療保険」の問題だ。実習生や留学生は在留資格があるので、健康保険証を持ち3割負担で医療が受けられる。しかし、いったん解雇された実習生はどうなるのだろうか。

「一度監理団体を離れてしまうと、保険はなくなります。現に、病気やけがをしても保険診療が受けられず、自由診療で多額の診療費を請求される例もあるのです。きちんとした形で最低限の医療を受けられる保障をしてほしいと思っています」

タム・チーさんは、技能実習制度の見直しが必要だと訴える。

「現在の実習生は、技術を十分に習得する環境にはほど遠く、単に肉体労働を強いられているだけです。日本人と同じように働き、きちんと給料をもらえれば、ベトナム人だって税金を払えます。日本にとってもプラスになる。日本がバラ色の国なら定住者ももっと増えるはず。そうやってお互いに理解することができれば、もっといい社会になると思います」

日本社会の一員として、ベトナム人が長期労働できるような仕組みが待たれる。ベトナム人に限らない。外国人と共存する社会が構築できればいいと考えている。


《ルポ》駆け込み寺の尼僧が見た実態
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【2】妊娠がバレたら帰国。孤立出産、中絶を選ぶ技能実習生の悲哀<ルポ・苦境に立つベトナム人実習生2>
【3】急増する自殺と突然死。「技術の習得はほど遠く、単に肉体労働を強いられている」<ルポ・苦境に立つベトナム人実習生3>