「人」という漢字に「支え合う」という意味はなかった

ゴルゴ 確かに僕も講演のときはそうかもしれません。でも、「金八先生」はドラマですよね?

『「命」の相談室-僕が10年間少年院に通って考えたこと』(著:ゴルゴ松本/中公新書ラクレ)

武田 ドラマと言っても生徒役の子たちは役者じゃなくて、ほとんど素人でしたから。本当は台本に書いてある台詞なんかで、うなずくような子たちじゃないんです。

「この子たちが心から黙って聞きたくなるような話じゃないとダメだ」と思いながら、「人」っていう文字を黒板に書いた記憶があります。

ゴルゴ いやあ、そうだったんですか! 確かに子どもには分かりやすいですよね。漢字としてもとても簡単で、象形文字なのでわかりやすいですよね。でも後に武田さんが調べたところ、「人」という漢字に「支え合う」という意味はなかったとか……。

武田 白川静さんの学説によると、実は「立っている人間を横から見たもの」という、非常にシンプルな成り立ちだそうです。

ゴルゴ 漢字の成り立ちは、主にはただの記号ですからね。今で言うLINEスタンプと同じ。でも僕は成り立ちや辞書に載っている意味だけではなく、自分たちなりの捉え方を見いだすことが大切で、それを許してくれる懐の深さが漢字にはあると思います。現に「人と人とが支え合っている」という金八先生の言葉には、多くの方が心を動かされましたから。