イラスト:柿崎こうこ
今年も残すところわずかとなりました。年の瀬が近づくと頭をよぎる〈大掃除〉。すっきりとした気持ちで新年を迎えたいところですが、いざ始めると何を捨て、何を残すかで途方に暮れてしまうという人も多いのでは。整理は苦手で面倒くさがりという鈴木響子さんの場合は、きれい好きの姉が部屋の片づけを引き受けてくれているそうです。しかし、姉に提案されても絶対に捨てたくないものがあって――。

見えないところは、なにもかもが無秩序で

夏の盛りに遊びに来た姉が、私の仕事部屋をのぞいてあきれたように言った。「汚いなあ。よくここで仕事なんかできるね」。眉をひそめ、口の端をぐいっと下げ、「くさっ! なによ?この臭い」。

私は少しだけ申し訳なさそうなふりをする。「生ゴミよ。ほら、あれ」。ドアのうしろからのぞいている袋を指差した。「どうしてこんなところにあるの? 信じられない」。姉は、外国人のように首をふってドアを閉めた。

好きで部屋に生ゴミを置いているわけではない。裏庭に通じるドアのかぎが壊れ、生ゴミを外に出せなくなったからだ。キッチンに持って行くのも億劫。でも臭いなんて、部屋に入って1分もすれば慣れる。別に気にならない。

私の仕事部屋は玄関を入ってすぐ右手にある、6畳ほどの洋室。ピアノと机と書棚がひしめくように並んでいる。机の上には、ペンや鉛筆、ホチキス、消しゴムなど、さまざまなモノが散乱しているのが常だ。

メモは、書類の隙間であったり、置時計やペン立ての下であったり、意味もなく無造作にはさまれている。ゴミ箱に入りきらず、何枚かの紙が床の上に飛び出す。その紙類や冊子で溢れかえった部屋で、私はもぐらのように過ごしている。

だらしがない、と言われればそれまでだが、そうではない。たぶん。几帳面なところも、おおざっぱなところもあるのだ。ほかの部屋、たとえばリビングは毎日掃除機をかけるし、もちろん洗濯も風呂掃除もする。観葉植物を飾り、それなりにインテリアにも気を使っている。

しいて言えば、整理は苦手だ。そして面倒くさがり。キッチンの引き出しには、菜箸や輪ゴムや計量スプーンがもつれ合い、よく見ると髪の毛まで入っていてぞっとすることがある。冷蔵庫の中には賞味期限切れの調味料。

見えないところは、なにもかもが無秩序なのだ。でも、見えないのだから、どうでもいいではないか。