岡本かの子を演じてみたい

先生の訃報を知った息子は、「偉大な人が亡くなったね。あんなすごい人には会ったことがないよ」と言っていました。彼も先生のすごさをわかってくれていたんだなあ、と嬉しかったです。最後に息子が先生にお会いしたのは、高校生の頃。成人してからゆっくり訪ねる機会があればよかったな、とすこし心残りです。

最近、先生の作品で何が好きかと聞かれる機会がありました。私が一番好きなのは、岡本太郎の母であり作家の岡本かの子の一生を描いた、『かの子撩乱』。情熱のまま、自身に正直に生きることを強烈に印象づけた作品でした。

できることなら、舞台や映像作品でかの子を演じてみたいですね。でも先生からは、「『瀬戸内寂聴物語』をやりなさいよ」と言われています(笑)。若い頃を演じるのは無理なので、得度してからの先生を演じてみたいという気持ちはあります。

「あなたは文章書けるわよ。書きなさい」とも、よく言われました。「本を出す時、私、帯の推薦文を書くから」と。残念ながらそれは間に合いませんでしたが、今まさにエッセイの準備を進めているところです。私の中に、出るか出ないかわからない芽を見つけてくださっていたとしたら、とても光栄なこと。先生の《遺言》だと思って、取り組んでいます。

先生は、最後の最後まで書くことに情熱を持ち続けておられた。並大抵のことではないと思います。その生き方をで感じることができたのは、ほかには代えがたい、幸せな体験でした。

時間は戻らない。人は過去に戻ってやり直すことはできない。だから、ほんの少しずつでも前に進むしかない──それが人生なのだと、先生に教わった気がします。