私の思考回路に、風穴を開けて
どんなに苦しくても、悲しくても、それがずっと続くわけではない。逆に、どんなに幸せでも、それが永劫に続くことはない。よくおっしゃっていたのが、「人生は無常」。仏教でいう「無常」とは、ものごとは常に変化し続けており、人は同じ場所にとどまることはできない、ということなのですね。だからこそ、人生にはいろいろな味わいがある、と──。
先生の言葉は、狭いところで堂々巡りしていた私の思考回路に、風穴を開けてくださいました。
3年前に私が離婚した時には、「あなた、自由なのよ。これからがあなたの人生なんだから。どんどん恋もして、好きなように生きればいいの。これからが面白いのよ」と言ってくださいました。
私よりずっと先を歩いている先生からそういう言葉をいただくと、勇気がわきます。おかげで「これから先、先生のように生きていけるのなら楽しいはず」と思えるようになりました。
先生は作品や発言を通して、女性が感じる生きづらさを世の中に伝え、「まだまだ私たち、現状に甘んじていてはいけないのよ」と鼓舞されていた。私も、先生の励ましを受け取ったひとりです。
寂庵には、息子を何度か連れていっています。赤ん坊の頃に先生に抱っこしてもらったこともあるんですよ。その時撮った写真を、家族写真の一枚としてわが家のリビングにいまも飾っています。
息子が中学に入ったくらいの時期でしょうか。寂庵を訪問して彼が席を外した時、先生は「あの子、楽しんでいるかしら? 私たち、難しい話ばかりしていたから」と心配そうにおっしゃった。少年に対してもひとりの人間として扱ってくださるなんて、と驚きました。